狙われるスマートキー 特殊ソフトで複製、高級車盗難 複製ソフト、海外通販サイトでも流通
車に近づくだけでドアの解錠やエンジンの始動ができる「スマートキー」の仕組みを悪用する国産高級車の盗難被害が目立ち始めた。運転席のドアをこじ開け、特殊なソフトを使って車載コンピューターから鍵のデータを抜き取るなどの手口。ソフトはネット上で出回っているとみられ、被害金額が億単位に上る例もある。(佐藤未乃里)
「車に入ればエンジン始動まで最速で1分」。大阪府警が今年3月までに窃盗容疑などで逮捕・送検した男(37)は、複製ソフトを使う手口について、こううそぶいたという。
府警によると、男は電動ドリルなどの工具で運転席のドアをこじ開け、特殊ソフトの入ったパソコンを車載コンピューターに接続。抜き取ったスマートキーのデータを持参した基板に落とし込んで”鍵”を複製。エンジンをかけ、そのまま走り去っていた。
男はトヨタ自動車の「レクサス」など高級車を狙い、2017~18年に自動車盗を繰り返していた。別の手口の犯行も含めると被害は大阪府など4府県で約150件、総額約7億円に上った。
このほか、府警は同様の手口で犯行を重ねたとして30~40代の男3人を7月までに逮捕・送検した。17~19年に大阪など2府5県で約170件(総額約6億4千万円相当)の被害を裏付けた。このうちの1人は「複製ソフトは海外サイトで購入した」と供述したという。
鍵業界関係者によると、複製ソフトはドライバーらの依頼で合鍵を作る際に使われている。ソフトを購入する際は、開業届を示すなど正規の合鍵作製業者であることの証明を求められるのが一般的。ただ、ある業者は「正規業者ではない個人からの購入打診は後を絶たない」と明かす。
捜査関係者によると、複製ソフトは通常の検索では見つからない「ダークウェブ(闇サイト)」でなく、海外の通販サイトなどでも購入できるという。実際、ある通販サイトを開くと「スマートキーのロックを解除」「キーの生成」などの文言とともに電子機器やソフトが売られ、使い方を解説する動画も掲載されている。
車に近づくだけで自動解錠するスマートキーを巡っては、鍵が発する微弱電波を増幅して中継する「リレーアタック」と呼ばれる盗みの手口も確認されている。
警察庁によると、18年に認知された自動車盗は8628件。ピークの03年の7分の1以下に減少したものの、車内などに鍵が残されていないのに被害に遭う「キーなし」の割合は一貫して7割を超えている。「盗難対策を講じても次々と新しい手口が出てくる。いたちごっこのような状態」(国内の自動車メーカー)
自動車評論家の国沢光宏さんは「スマートキーの複製対策は進んでいない可能性が高く、被害が増える恐れは十分にある」と指摘。「ドアがこじ開けられたら警告音が出る装置を取り付けるなど、車内への侵入を防ぐ手立てを講じてほしい」と話している。
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